途上国での活動

スリランカ
2021年3月~実施中
民族共生による貧困女性生計向上プロジェクト~収入向上と栄養改善を目指して​​​​​​​

【背景】
(1)スリランカ国の厳しい経済
スリランカは2019年の過激派組織ISのテロ事件や新型コロナウィルスによる観光業への打撃、政府のインフラ整備等による多額の借金から外貨が極端に不足しました。
2022年には、デフォルト(債務不履行)状況に陥り、国は独立以来の経済危機に直面しました。ガソリン、電気、ガス、米、小麦、スパイス等の生活必需品の値段は2倍~3倍以上に跳ね上がり、人々の生活は厳しくなり、特に低所得層の人々に大きな影響を与えています。
(2)スリランカの民族と課題
スリランカには、主にシンハラ・タミル・ムスリムの三民族が暮らしています。タミル人の独立を目指すLTTE(タミル・イーラム解放の虎)と政府軍の間で26年にわたり内戦が続きましたが、2009年に政府軍がLTTEを制圧し、内戦が終結しました。その後は順調に経済発展が進みましたが、一方で貧富の差が依然として存在し、特にタミル人に貧困層が多いのが現状です。また2019年には、スリランカの複数地域で教会やホテルを狙ったISによる同時爆弾テロがあり、日本人1名を含む260名以上が犠牲となりました。このテロにより、被害のなかった地域でもムスリムに対する根拠のない噂が流布しました。
(3)マータレー市の低所得層女性たち
スリランカのマータレー市は、中心都市コロンボからバスで約5時間の地方にあります。地域に特段の産業はなく雇用の機会も限られています。マータレーで生活する低所得層女性の多くは、初・中等教育しか受けていなく、収入を得られる仕事も持っていません。夫や家族の収入も限られるなか(中東やコロンボに出稼ぎに行っているケースも多い)、経済危機による物価上昇はマータレーの低所得家庭の生活をより一層困難な状況にしました。

【プロジェクトの目的】
TLAGは、低所得層の課題に取り組むため2019年よりコミュニティ調査を始めました。コロナ禍で一時中断しましたが、2021年からマータレー市役所の理解と協力を得て、低所得層女性が取り組みやすく、また地域の自然環境に適したオーガニック家庭菜園を通じた生計向上活動を開始しました。
マータレー市には、スリランカの多数派民族シンハラ以外にタミルやムスリムの人々も多く暮らしています。TLAGは、マータレー市でシンハラ、タミル、ムスリムの低所得層の生計向上を図るだけでなく、民族に関係なく協力して活動することでスリランカの民族融和に貢献したいと考えています。また宗教や伝統文化的に外で働くことが難しく、安定した職を得にくい女性たちに収入を得る機会を創ることを目指しています。

【プロジェクトの進捗】
プロジェクトは当初2020年4月に開始する予定でしたが、Covid-19のパンデミックの影響を受け、日本人スタッフが現地に渡航できず一旦延期となりました。その後、コロナ禍で何ができるか現地スタッフらと検討を続けた結果、まずはできる地域からできることを始めようと、貧困層の多いタミル地域の各家庭でオーガニックの野菜や植物を育てることにしました。一部は家庭消費として、上手く育てられた植物は販売し収入向上につなげる計画です。
2021年7月からは、オーガニック農業と農業ビジネス支援の現地専門家から協力を得て、コミュニティで女性を中心とした住民メンバーに研修を行いました。住民メンバーが地域に自生する植物の葉を事前に収集し、その葉液を活用した有機肥料や、台所からでる生ゴミから液体肥料を作りました。またマータレー市の貧困層は土地が狭い家庭が少なくないため、広い土地がなくても垂直に栽培できるCultivation Towerの農法を導入しました。メンバーは研修で学んだ知識とスタッフ・専門家のアドバイスを活かし、家庭菜園を作り栽培し収穫することができました。
2022年4月よりシンハラ・ムスリムの人々が住む3コミュニティへと活動を広げました。
2023年3月までに5コミュニティで活動し、2023年4月から新たな2コミュニティへのオーガニック栽培の普及を目指しています。

【プロジェクトの成果】
2021年には3コミュニティの25名、2022年には3コミュニティの29名の女性が参加しました。オーガニックとは何かを知らなかった女性たちが研修で学んだ知識とスタッフ・専門家のアドバイスを活かして、家庭菜園を作り、有機野菜を栽培し収穫できるまでになりました。
2022年10月にはビジネスを目指すメンバーが集まり、三民族合同のミヒカタ協働組合(Mihikata Organic Agro Entrepreneur Cooperative Society LTD-Matale)(*ミヒカタはシンハラ語で「地球」)を設立した。協働組合の会長、副会長、書記、会計を選出し、協働組合として組織化しました。民族や宗教の垣根を越えて協力して活動を進めています。
ミヒカタ協働組合として、2022年11月に初めて販売会を行うことができました。その後も、2023年3月8日の国際女性デーには2回目の販売会を行うなど、順調に販売会を行っています。
プロジェクトが開始して以来、女性メンバーたちの多くはオーガニック家庭菜園を仕事と感じ始めています。また初めは自分には無理と考えていた女性たちが、今は積極的に活動に参加しています。メンバーたちが少しずつ自信をつけ、活動をビジネスとしてさらに発展させていきたいと意欲を持つようになりました。
今後より多くの女性に参加の機会を提供することで、更に多くの女性のエンパワーメントにつなげていきたいと考えています。
貧困層女性の有機野菜の栽培技術を更に高めるとともに、より換金性の高い商品の栽培も行っていきます。低所得者の栄養の改善をはかるとともに、生計の向上を目指しています。
かつて協力隊時代に共に活動した信頼できる現地スタッフと、惜しみなく協力してくれる仲間がスリランカで頑張っています。これからも現地と力を合わせ、プロジェクトを進めていきたいと思います。
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